このアルバムの3つのポイント
- ショルティ最晩年のウィーンフィルとのコダーイ、ブラッヒャー、エルガーの変奏曲集
- 肩の荷が降りた慈愛に満ちた音楽と眩いばかりの荘厳さ
- レコード・アカデミー賞受賞!
ゲオルグ・ショルティ晩年の演奏
20世紀を代表する指揮者の一人、サー・ゲオルグ・ショルティは1912年10月にハンガリーのブダペストで生まれで、1997年9月に亡くなったのですが、最晩年まで指揮台に立って活躍しました。
指揮者の最晩年の演奏と言ったら、これまで何回も演奏してきた十八番の曲を集大成のように演奏する方もいます。例えば、2019年に引退したベルナルト・ハイティンクは最後のシーズンではブルックナーの交響曲第7番を繰り返し指揮してきました。ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団とのザルツブルク音楽祭でも指揮していましたし、その前のオランダ放送フィルハーモニー管弦楽団でも演奏していましたね。
その一方で、ショルティは晩年にさらにレパートリーを拡大していて、亡くなる半年前、1997年3月のシカゴ交響楽団との最後のライヴ録音では、ショスタコーヴィチの交響曲第15番とムソルグスキー作曲ショスタコーヴィチ編曲の歌曲集「死の歌と踊り」を演奏しています。(FC2ブログ記事)
また、ショルティ最後の録音となった、1997年6月のブダペスト祝祭管弦楽団との録音では、ショルティの母国ハンガリーの作曲家(バルトーク、コダーイ、ヴェイネル)の作品を取り上げています。
集大成どころか、ますます前へ前へと突き進むショルティに驚かされます。
ウィーンフィルとの変奏曲集
今回紹介するのは、ショルティが1996年4月にウィーンフィルと録音した3つの変奏曲集。ソルタン・コダーイのハンガリー民謡「孔雀」の主題による変奏曲、ボリス・ブラッヒャーのパガニーニの主題による変奏曲 Op.26、そしてエドワード・エルガー作曲の「エニグマ変奏曲」 Op.36です。
ショルティの膨大なディスコグラフィーの中で私なりの10選をこの記事で紹介しましたが、そこに入れようか迷ったのがこのアルバム。
どれもウィーンのムジークフェライン・ザールで録音されたもので、ショルティ壮年期の特徴であるエネルギッシュや、オペラのような躍動感とは少し趣きが違って、まるで肩の荷が降りてリラックスして指揮したかのように慈愛に満ちています。
絶妙なバランスで絡み合うエニグマ
目玉はやはりエルガーの「エニグマ」ですが、もう冒頭の主題から鳥肌が立つくらいの儚さと美しさがあります。1974年5月にシカゴ響との「エニグマ」の旧録音がありますが、それから22年も立ってだいぶ丸くなったショルティの指揮に、録音では1958年のヴァーグナーの「ニーベルングの指環」を含めて長い付き合いのウィーンフィルが持てる全てを捧げるかのような演奏で応えています。第1変奏曲では美しさの糸が絶妙に絡み合っていて、ため息が出るほど美しいです。
ヴァイオリンはもちろん、オーボエを含む木管も柔らかいです。ウィーンフィルだからこその名演でしょう。
第4変奏でのキビキビとしたテンポと壮大さはショルティらしいです。
「孔雀」とパガニーニも
エルガーに比べるとコダーイの「孔雀」変奏曲とブラッヒャーの「パガニーニ」変奏曲は知名度が低いですが、このアルバムではこの2曲も存在感を放っています。
特に「孔雀」はエキゾチックな作品ですが、ショルティとウィーンフィルのこの演奏ではまるで眩いばかりの金色堂を見ているかのような、派手すぎない華やかさ壮大さがあります。
まとめ
ショルティが最晩年にウィーンフィルと録音した、コダーイ、ブラッヒャー、エルガーの変奏曲集。レコード・アカデミー賞受賞も納得の良い演奏です。
オススメ度
指揮:サー・ゲオルグ・ショルティ
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
録音:1996年4月19-29日, ウィーン・楽友協会・大ホール
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受賞
1997年度の日本のレコード・アカデミー賞「管弦楽曲部門」を受賞。
コメント数:1
エニグマは、シカゴ響との旧録音の方しか聴いておらず、ニムロッドなどで、もう少し「ため」があってもいいのでは、などと勝手に思っておりました。この記事でおすすめいただいた演奏は、晩年のショルティの円熟、ウィーンフィルの流麗さ、ホールの響き、録音技術の向上など、いろんな点で素晴らしいと思いました。ニムロッドはこちらの方がゆったりと聴こえたのですが、演奏時間を見ると旧録音とそんなに変わらない(むしろ5秒短い)ので不思議です。コダーイはハンガリーつながりでわかるのですが、晩年になって、知名度の低いブラッヒャーの作品を晩年に取り上げているのは、本当にすごいと思います。年齢を重ねても新しいことに挑戦していく姿は、私も見習いたいと思います。(今はこちらの羅針盤を頼りに、少しずつ作品や演奏者の幅を広げさせていただいています!)