来日ラッシュのヨーロッパの一流オーケストラ
新型コロナウイルスの影響が落ち着いてきたのもあり、今年の秋は海外のオーケストラの来日公演が続きました。
私も10月24日(火)にクラウス・マケラ指揮オスロ・フィルハーモニー管弦楽団のサントリーホール公演、11月15日(水)にトゥガン・ソヒエフ指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団の横浜公演、11月20日(月)はキリル・ペトレンコ指揮ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団のサントリーホール公演を聴き、そして11月22日(水)には今回紹介するアンドリス・ネルソンス指揮のライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団のサントリーホール公演に行ってきました。
私は行かなかったのですが、これ以外にもオランダの名門ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団もファビオ・ルイージとともに11月上旬に来ていました。また、イスラエル・フィルハーモニー管弦楽団も11月下旬に来日予定でしたが、昨今のイスラエル・パレスチナ情勢を鑑みて中止に。それにしても世界一流のオーケストラがこぞって来日するのはコロナ前に戻った気がして嬉しい限りです。物価の高騰と円安のおかげでこの4年でチケット代はえらく上がってしまいましたが…。
サントリーホールにゲヴァントハウス管が来た
さてそのゲヴァントハウス管の来日公演ですが、11月21日と22日に東京・サントリーホールのみの演奏会。主催はKAJIMOTO。クラシック音楽を中心とした国内外アーティストのマネジメントやコンサートの招聘をおこなっている会社です。
ベルリンフィルと同じくゲヴァントハウス管も今回が4年ぶりの来日でした。
【KAJIMOTO】アンドリス・ネルソンス指揮 ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団 2023年11月来日ツアー
ネルソンスは昨年2022年11月に米国ボストン交響楽団の来日公演にも来ていました。私はその2ヶ月後の2023年1月にボストンに出張する予定があったので、「本拠地ボストンのシンフォニーホールで聴けるから良いや」とパスしてしまったのですがその週はネルソンスがウィーンフィルへ客演していてカリーナ・カネラキスが指揮でした (紹介記事)。こういう巡り合わせもポジティブに考えています。
さてサントリーホールの様子をどうぞ。
入り口を入ると中にはクリスマスの飾り付けが。赤と金がまばゆくてすごくきれいでした。
に展示が変わるのも趣があって良いですね。
主催者のKAJIMOTO のお知らせがあり、終演後のカーテンコールに限り写真撮影はOK とのこと。DVD で海外のコンサートを観るとスマホでパシャパシャやってますよね。日本でも美術館の撮影も最近になってようやく解禁されてきたので、クラシックの演奏会でもそれが普通になって欲しいです。
演奏会のプログラムは有料ですが1冊1千円。今回の来日公演ではオスロフィルとウィーンフィルでは冊子が無料で配られ、ベルリンフィルは有料で2千円とそれぞれ違いがありました。
ヴァーグナーとブルックナー
22日(水)のプログラムはヴァーグナーのトリスタンとイゾルデの前奏曲と愛の死、そしてブルックナーの交響曲第9番です。どちらもネルソンスとゲヴァントハウス管のコンビでレコーディングした曲ではありますが、生ではどうなのか、本場ドイツの重厚な響きはどうなんだろうと期待が高まります。
オスロフィルのときは女性、しかも若い女性が多めでしたが、それは指揮のマケラが目的だった方もいたでしょう。ウィーンフィルのときは男性も女性も半々ぐらいかな。着飾った方が多かったです。それに比べてこの日の客席は男性が多めに見えます。ブルックナーは中年以上の男性に人気があるからだ実感しました。
オーケストラの配置は2代前のカペルマイスター、ヘルベルト・ブロムシュテットが採用した対向配置を継続。第2ヴァイオリンが指揮者の右にいます。
前半の「トリスタンとイゾルデの前奏曲と愛の死」。ネルソンスがタクトを構えると、突然、客席からうめき声が聞こえました。離れている他のお客さんもちらっと見るほどよく聞こえたのですが、ネルソンスは集中しているのか、ネルソンスは動じずに振り始めます。ふわっと官能的な美しさで始まりゲヴァントハウスのサウンドに酔いしれました。媚薬のようなヴァーグナーの音楽に、気持ちが良すぎたのが周りのお客さんも眠りに落ちてしまった方もいました。
ペトレンコは短い指揮棒でしたが、ネルソンスは標準的な長さの指揮棒で、スタイルもオーソドックス。気持ちが乗ってくると指揮台のパイプに捕まって片手でスイングするように振ります。
前半が終わると後半の時間になっても客席に戻ってこない方も複数人いました。後半はブルックナーの交響曲9番なのですが、世の中にはブルックナーを嫌いな方もいるのかな…
第9番で使用したスコアはノーヴァク版。第1楽章の冒頭で弦が生み出す細かい霧が明けていく瞬間は鳥肌が立ちました。第1主題の直前に降下するところではテンポを加速する演奏も多いですが、ネルソンスは手綱はガッチリと抑えたまま、ゆったりと降りて行き、そして強烈な第1主題を披露します。
第1楽章の展開部の400小節からの憐れみを誘う弦の旋律は第1ヴァイオリンと第2ヴァイオリンが紡いでいくのですが、対向配置によってステレオ効果が出ていました。またティンパニーは荒々しく、コーダからの勢いはCD で聴いていたのと同じゲヴァントハウス管の印象。
第2楽章のスケルツォではピチカートがよく聴こえ、トゥッティでは一定のリズムながら荒々しさも刻んでいきます。木管によって美しく現れた主題も見事。トリオでは凝縮された密度で一気に進みます。
第3楽章のアダージョは美しくもあり、ガラスが割れるような強烈さ、そして後のマーラーや無調音楽を予感させるような斬新さもあります。ゲヴァントハウス管の演奏には、美しいだけではないブルックナーの最後の交響曲の魅力が溢れていました。
全休符のフェルマータでは時間が止まったかのようにオーケストラのメンバーが弾いたままの状態でピタッと動きを止めます。いよいよコーダでついに終焉に向かい、自愛に満ちた音で静かに終わっていきます。演奏後もそのまま止まるオーケストラと指揮者。固唾をのむ客席。ゆっくりとネルソンスの指揮棒が下りてきて、温かな拍手が起こります。
ブルックナーに拍手を
カーテンコールで何回か呼び出さた後、ネルソンスは指揮台で楽譜を高く持ち上げます。演奏者だけではなく、作曲したブルックナーにも拍手を、という意味でしょう。
楽団員がステージから退出しても鳴り止まぬ拍手に応えて、ネルソンスが一人でステージに現れます。素晴らしい音楽をありがとうございました。
ドイツのサウンドでヴァーグナーとブルックナーを堪能した夜でした。
指揮:アンドリス・ネルソンス
ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団
演奏:2023年11月22日, サントリーホール
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